いま話題となっている自転車といえば「e-BIKE」である。簡単に説明すればスポーツタイプの電動アシスト自転車のことだ。自転車に少し詳しい方は「何だ、そんなの以前からあるじゃん」と思うかもしれない。たしかにヤマハの「PASブレイス」やパナソニックの「ジェッター」など、MTB(マウンテンバイク)やクロスバイクタイプの電動アシスト自転車は10年ほど前からすでにあった。しかし、それらは基本的に軽快車(いわゆるママチャリ)タイプの電動アシスト自転車と同じドライブユニットやバッテリーを流用しており、ここでいうe-BIKEとは少し定義が異なる。
e-BIKEは専用のドライブユニット&バッテリーをスポーツサイクルに準拠したジオメトリー(各部の寸法のこと)で設計された軽量フレームに搭載している。ここが一般的な電動アシスト自転車との大きな違いである。専用ドライブユニットの具体的な特徴を挙げると、まず軽量かつコンパクトであること。軽快車用のドライブユニットを流用したこれらまでのスポーツタイプ電動アシスト自転車と比べて設計上の制約が少なく、いかにもスポーツサイクルらしい軽快な操縦性を実現することができる。さらに、ペダルを踏み込んだ際にモーターによるアシストが素早く立ち上がることも特徴だ。これはクルマやオートバイを連想してもらうと分かりやすいだろう。アクセル操作に対してレスポンスの良く反応するエンジンというのはスポーツ走行にとって欠かせない要素のはずだ。また、バッテリーの容量が大きく、1充電で100㎞を超える走行が可能なモデルも少なくない。ただし、アシストのパワーは道交法で定められているため、一般的な電動アシスト自転車とほぼ同じだ。時速10㎞までは人の力1に対して最大2までのアシストが可能で、速度が上昇するとともにアシスト力が減少。時速24㎞でアシスト力は完全にゼロとなる。もちろんモーターの力だけで自走することはない。それでも一般的な電動アシスト自転車に比べてドライブユニットが高効率であることや、自転車そのものの基本性能が高いこともあって、加速感は別次元である。
いまのところe-BIKE専用のドライブユニットを製造しているのはシマノ、ヤマハ発動機、パナソニックといった国内メーカーのほか、すでに欧州で大きなシェアを獲得している独ボッシュなどがあり、サプライヤーとして自転車メーカー各社に供給を行っている。
まだ登場から10年ほどしか経っていない新しいカテゴリーだが、スポーツサイクルが盛んな欧州ではすでにその人気が定着しており、各社がその性能を競い合っている状況だ。なぜそこまで人気となったかといえば、年齢、性別、体格に関係なく誰でもスポーツライドやサイクリングが楽しめるということに尽きる。クルマやモーターサイクルにはない、軽便で俊敏なスポーツサイクルの走行感を体力的な負担なく楽しめるのである。
そんなe-BIKEが今年いよいよ日本でも本格的に展開され、話題となっている。つい先日も世界最大の自転車メーカー、台湾のジャイアントがヤマハ発動機と共同開発したドライブユニットを搭載するe-bike「ESCAPE RX-E+」を国内発表した。残念ながらまだ乗ったことはないが、写真とスペックを見る限り、かなり完成度が高そうだ。
ジャイアント「エスケープRX-E+」 28万円(税抜き)
ただ、自転車に対する認識が完全な実用とガチガチのスポーツで二極化されている日本において、e-BIKEの魅力を理解してもらうのはかなり時間を要するように思う。「ラクに走れるスポーツサイクル」というだけでは約30万円という価格を納得させることはできないだろう。自転車ともモーターサイクルとも異なる、e-BIKEにしかできない遊び方、楽しみ方を提案できなければ……。
個人的な見解だが「旅」というのがひとつのキーワードになるような気がする。自転車での旅はガラスやヘルメットを隔てて外界を見て走るクルマやモーターサイクルと比べ、風景を全身で感じることができるし地形も把握しやすい。e-BIKEならばそんな自転車旅のハードルをぐっと下げられることだろう。
ここからはすでに国内で販売されているe-BIKEのなかで、私が乗ったことのあるモデルについて簡単なインプレッションを掲載する。
ヤマハ「YPJ-EC」 26万円(税抜き)
ヤマハ発動機がラインナップするe-BIKE、「YPJシリーズ」でもっともリーズナブル(自転車にしては高価だが)で汎用性が高そうなのがクロスバイクタイプの「YPJ-EC」だ。50㎞超のツーリングに出かけてみた感じたことを簡単に記したい。
※1分間あたりのクランクの回転数。高ケイデンス=回転数が多い。
ゼロ発進や登り坂で楽であることは言うまでもないが、とくに印象的だったのはクロスバイクとしての基本性能の高さである。電動アシスト自転車というのは時速20㎞を超えると実質的にほとんどアシストが効いていない状態になるが、YPJ-ECは平地であればそこからでも難なく加速できる。私の脚力は趣味としてロードバイクをやっている人のなかでは中程度のものだが、だいたい時速27㎞あたりが気持ちの良い巡航速度に感じられた。もちろんアシストがカットされている速度域である。YPJ-ECはフレームの精度や剛性、パーツのクオリティが高いため、摩擦抵抗や転がり抵抗が少なく、速度が乗ってしまえばアシストの領域を外れたスピードでも巡航できるのである。当然、バッテリーも減らない。もっともアシスト力の強いハイモードを常用していたにも関わらず、約54㎞(獲得標高※515ⅿ)を走ってバッテリーはわずか26%しか消費していなかった。一般的な道であれば1日の走行でバッテリーを使い切ることはほぼないだろう。 ※スタートからゴールまでに登った高さの総計
やや気になったのは砂や泥が浮いた路面ではタイヤのグリップに頼りなかったことだ。これは電動アシストのない普通のクロスバイクと比べても顕著に感じた。約20㎏というスポーツサイクルとしては重い車重に対してタイヤが細すぎる印象だ。個人的にはもうワンサイズ太いタイヤの方がさらに扱いやすかったと思う。
YPJ-ECはS、M、Lという3種類のフレームサイズが用意されている。身長170㎝の筆者ならMサイズだ。いまのところ日本で販売されているe-BIKEの一種類は2種類のフレームサイズしか用意していないモデルが多いので、大きなアドバンテージだろう。適切なサイズの自転車をチョイスするというのはスポーツサイクル選びの必須事項だからだ。
【SPEC】
フレーム:アルミ
フロントフォーク:アルミ
ドライブトレイン:シマノ・ソラ 2×9速
ブレーキ:シマノ・ソラ 機械式ディスクブレーキ
タイヤサイズ:CST SENSAMO SUMO 700×35C
車両重量:19.9kg(Lサイズ)、19.8kg(Mサイズ)、19.6kg(Sサイズ)
満充電でのアシスト走行距離:ハイモード 約89km/スタンダードモード 約109km/エコモード 約148km/+ECOモード 約222km
パナソニック XM1 22万5000円(税抜き)
XU1は価格に対しての各部の造りの良さに目がいく。フレーム&フロントフォークのがっちりとした造りは普通の自転車とは完全に別物。さらに標準装備のアルミ製の前後泥よけやリアキャリア、スタンドはいずれも専用に設計・デザインされたものと思われる。そして車体の生産はパナソニックの柏原工場、つまり日本製だ。これで22万5000円という希望小売価格はかなりお買い得感がある。
安価であることの理由のひとつはバッテリーの容量だろう。XU1のバッテリー容量は8.0Ahと、前述したライバル2台よりも少ない。YPJ-ECとクルーズは標準的なアシストモードで走行距離100kmを超えるのに対し、XU1は約57km(AUTOモード)とかなり短い。明らかに普段使いやシティユースに特化した特性だ。フレームサイズを一種類しか用意していない点もコストダウンに一役買っていることだろう。
走ると見た目の印象に違わぬ車体剛性の高さに好感をもった。自社製ドライブユニットのパワー感はe-BIKEとしては驚くほどのものではないが、とにかく「走る、曲がる、止まる」の挙動が正確で安定している。剛性不足の自転車は強くブレーキをかけたときにフレームやフォークがわずかにたわんで挙動が不安定になったりするが、そうした部分がまったく感じられない。また、足を止めて惰性だけで走ってみるとまるで氷の上でも滑っているかのようなとてもスムーズで滑らかな走りをする。XU1のフレーム&フロントフォークは剛性と共に精度も高いと見ていいだろう。
700×50CというMTB並みに太いタイヤの採用も個人的には良いと思った。太いタイヤは接地面積が増えて抵抗が大きくなるが、e-BIKEならばその欠点をモーターアシストで補うことができるからだ。乗り心地に優れ、荒れた道でも安心して走れる太いタイヤのほうが総合的なメリットは大きい。
ただし、裏を返せばモーターによるアシストが必須ということでもある。XU1でアシストがほとんど効かなくなる20km/h以上の速度を維持するのはそこそこ骨が折れる。細いタイヤを採用するYPJ-ECでは、平地ならアシストが効かなくなる24km/h以上の速度域でも巡行が可能だったが、XU1は基本的に常時アシストを効かせて走るのが前提だ。筆者の脚力だと21~22㎞/hが気持ち良く走れる速度。カタログ値よりも走行距離が大幅に伸びる傾向にあったYPJ-ECとは異なり、XU1はおそらくカタログ通りの走行距離になるだろう。
気になった点をひとつ。スポーツサイクルでは、ペダリングの効率を高めるために軽快車(いわゆるママチャリ)よりもサドルを高めに調整する。したがって信号待ちなどで停車する際、サドルにまたがったまま両足を地面に着くことはできない。片足をペダルに載せ、もう片足を縁石などに乗せて停車。もしくはサドルから一旦腰を下ろし、フレームのトップチューブにまたがった状態で停車することになる。問題は前者のときである。ペダルに足を載せたまま停車しているとアシストのセンサーが過敏に反応して前に進もうとしてしまうのだ。もちろんブレーキをかければ止まるがあまり気持ちの良いものではない。停車時は一定以上の入力に対してのみアシストが起動するようプログラムをアップデートするなどの対応をぜひ望みたいところだ。
フレーム:アルミ
フロントフォーク:アルミ
ドライブトレイン:シマノ・アリビオ 1×9速
ブレーキ:シマノ・アルタス 油圧式ディスクブレーキ
タイヤサイズ:700×50C
車両重量:24.5kg
満充電でのアシスト走行距離:ハイモード 約44km/オートモード 約57km/エコモード 約82km
ミヤタ「リッジランナー」 36万9000円(税抜き)
ミヤタ・リッジランナーは90年代初頭のMTBブームにおいて、アラヤ・マディフォックスやパナソニック・マウンテンキャットなどとともに一世を風靡したMTBの名を冠している。
ドライブユニットはシマノ製のe-BIKE用ドライブユニット「STEPSE8080」を搭載。重量が2.8kgと軽く、コンパクトであることから通常のMTBと同じジオメトリーでフレームを設計できることが強みだという。
リッジランナーの車体構成は近年のMTBのトレンドを踏まえた仕様となっている。コンペティションに特化したモデルは別として、現在のMTBはどんどんとシンプルな方向へと進化しており、その象徴的なディテールが27.5+(プラス)と呼ばれるセミファットタイヤの採用。簡単に言えば、エアボリュームの大きいタイヤを装備することでタイヤ自身にサスペンション効果を持たせようというものだ。タイヤの接地面積が大きくなれば悪路でのトラクション性能も向上するし、リアサスペンションがないことで車体を軽量化できる。ただし、こうしたセミファットタイヤはわずか1気圧ちょっとの空気圧で走るため抵抗が大きく、巡行力が低下する。ただし、電動アシストを搭載することでそのネガを解消することができる。試乗では舗装路を中心に1日で約80㎞ほど走ったが、電動アシストなしだったら相当の体力を必要としたことだろう。もっとも強力なハイモードを多用し、アシストを常に効かせた状態で走り続けたが、バッテリーは半分も減らなかった。未舗装路ではこの太いタイヤが本領を発揮して地面をのしていくような戦車のような強烈な走破性が楽しめる。とくに駆動力の伝わりにくい未舗装の急な登り坂もイージーにクリアできるのが強みだ。いくらモーターが強力なトルクでアシストしてもタイヤがスリップして駆動力に伝わらなければその真価を発揮することができない。e-BIKEのMTBでトレイル(未舗装の山道)を走ろうと思っている方は購入前にタイヤサイズをよくチェックすると良いと思う。リッジランナーはサドルの高さを手元で変えることができるドロッパーシートポストが標準装備されていることからも、山を走ることをしっかり想定した本格モデルといえる(トレイルライドにおいて、急な下り坂ではサドル高を下げるのがセオリー)。
【SPEC】
フレーム:アルミ
フロントフォーク:SR SUNTOUR RAIDON34
ドライブトレイン:シマノ・デオーレ 1×10速
ブレーキ:シマノ・デオーレ 油圧式ディスクブレーキ
タイヤサイズ:KENDA 1184A 27.5×2.8
車両重量:21.3kg(38サイズ)、21.3kg(43サイズ)
満充電でのアシスト走行距離:HIGHモード 約95km/NORMALモード 130㎞/ECOモード 約140km
(文・写真/佐藤旅宇)
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