サイクルモードで感じた「e-BIKE」のジレンマ

11月9日(金)~11日(日)の3日間、幕張メッセ(千葉県幕張市)で「CYCLE MODEinternational 2018」(以下サイクルモード)が開催された。日本最大級のスポーツサイクルイベントとして毎年秋に開催されている。規模は小さいが、クルマにおける「東京モーターショー」に相当するようなイベントなので、展示を見ることでスポーツサイクルのこれからのトレンドが何となく見えてくる。

今年の主役は誰がどう見てもe-BIKEだったと思う。
e-BIKEとは電動アシスト付きのスポーツサイクルのことだ。年を追うごとに少しずつ規模が縮小していくサイクルモードにあってe-BIKE関連のブースは年々その規模を拡大している。とくに今年はヤマハ、パナソニックをはじめとする各社から新型モデルが続々と登場し、自転車メディアのみならず一般メディアでもe-BIKEは多く取り上げられた。

私が取材に赴いたのは平日の初日、しかも雨天だったが、e-BIKE関連のブースはそれなりに盛況に見えた。これをもって「いよいよe-BIKEブームが到来!」などと書けば流行りモノ雑誌記事的にはOKなのだろうが、各社担当者の話を聞いて回るとそう楽観的にもなれない。

あるe-BIKEメーカーの担当者はこう話す。

「発売当初は注目度も高く、販売計画を大幅に上回るほどでしたが、競合モデルが相次いで登場した今年に入ってからは正直言って伸び悩んでます。他のメーカーさんも予測していたほどの結果は出ていないというのが実情ではないでしょうか」

ヤマハ発動機やパナソニック、ベスビーといったe-BIKEの完成車を販売するメーカーのほか、シマノやボッシュといったドライブユニットの供給を行うメーカーもブースを出していた。写真は欧州で大きなシェアをもつ中国「Bafang(バーファン)」のブース


この話から導きだされるのは、日本におけるe-BIKEのマーケットは依然として開拓段階にあり、そのパイはとても小さいという事である。欧州では登場から数年で爆発的な人気を獲得したということだが、いまのところ日本で同じような現象が起こるとは考えにくい。

「自転車」に対する意識が日本と欧州で大きく違うからだ。


電動アシスト自転車のパイオニアであるヤマハ発動機は他社よりも一歩早くe-BIKEを国内で展開した。2015年に発売されたロードバイクタイプのe-BIKE、「YPJ-R」である。その発表会ではこんなことが語られた。

ヤマハ YPJ-R


「YPJ-Rがターゲットにしているのは、トレーニングやフィットネスなどを目的とするストイックな自転車ユーザーではなく、スポーツサイクルに興味はあっても体力や年齢的な不安から踏み出せずにいた新しいユーザー層です」

これ自体はじつに筋の通った正しい認識だと思う。トレーニングは息を切らすことが目的であり、モーターのアシストなど不要だ。しかし、ここ日本で高価な自転車を購入するのはある程度ストイックな層であるということもまた事実だ。だからYPJ-Rは税抜き23万円という、ロードバイクタイプのe-BIKEとしてはかなり安価な価格で登場した。後にフレームやドライブユニットなどの基本を共用したクロスバイクタイプ「YPJ-C」も追加されたが、そちらはさらにリーズナブルな税抜き18万5000円である。

ただし、どちらも25.2V/2.4Ahという、かなり小容量のバッテリーが採用されていた。軽量な車体と軽快な操縦性を実現するために小型軽量バッテリーを採用した、というのが表向きの理由だったが、価格をなるべく抑えたいという意図もあったと推察できる。

2018年にヤマハ発動機が新たに販売したロードバイクタイプ「YPJ-ER」には36.0V/13.3Ahというスペックの大容量バッテリーが搭載されているが、単体での価格(上代)は税抜きで6万9000円。それに対してYPJ-R/Cのバッテリーの価格は税抜き2万3000円である。結果、YPJ-R/Cはリーズナブルな価格を実現できたが、e-BIKEとしては航続距離が短く、いまとなっては過渡期の中途半端なモデルという印象になってしまったことは否めない。


少し話がそれたが、いずれにしても既存のスポーツサイクルファンではない層にe-BIKEを売るには安くなければならないという認識は他のe-BIKEメーカーでも同じだろう。各社のラインナップを見てもそうした意図を強く感じる。

スポーツサイクルの魅力が子どもから老人まで広く浸透し、自動車の代替的な交通手段としても機能しているオランダやドイツといった国々と日本とで大きく異なるのは自転車に対するイメージである。日本の一般的な消費者は、いくら高性能であっても自転車は自転車。大枚をはたいて買う価値のあるものとして見てくれないのだ。

シマノブースで展示されていたe-BIKE用のコンポーネント。


いま国内で販売されているe-BIKEのほとんどは25~35万円の価格帯に収まる。これはe-BIKE本来の機能を満たすのに最低限の価格設定と思うが、それでも日本人の一般的な感覚からすれば目玉が飛び出るほど高価だろう。

今後、e-BIKEメーカーは製品をより洗練させる努力のほかに、自転車のイメージを変えるための働き掛けも行わなければならない。相当難しいことであると同時に時間もかかることだろう。いくつかのメーカーはサイクリングツアーを行っている会社と連携し、e-BIKEならではの遊び方、楽しみを訴求する取り組みをすでに行っている。


その一方で、今年のサイクルモードの展示からは、そうした現状の販売戦略に対する逡巡も伺えた。

パナソニックのブースでデュアルサスペンション(いわゆるフルサス)のe-MTB※が展示されていたからだ。 

※マウンテンバイクタイプのe-BIKE

参考出品ということだったが、市販を前提にしたものだという。ドライブユニットはすでに販売されている「XM2」と同じものが搭載され、前後とも160㎜のストローク量をもつサスペンションが採用されている。タイヤサイズは27.5×2.8。いわゆる27.5プラスを装着する。これは本格的なオフロードやトレイルを走るための仕様である。

パナソニックはすでに「XM1」や「XM2」という2台のe-MTBを市場に投入している。どちらもフロントのみにサスペンションを備えたいわゆるハードテイルモデルだ。パナソニックの担当者のお話では、この2台はルックスこそMTBだが、トレイルライドよりもシティライドを想定したものだったという。

パナソニック XM2


私はこれらのモデルでオフロードも走ってみたことがあるが、確かに少々荷が重いと思った。

緩やかな登り坂ではモーターアシストが絶大な威力を発揮するが、急斜面の登りになるとモーターの大トルクをタイヤが受け止めきれずスリップしてしまうのだ。もちろん適切な荷重移動を行うなどのテクニックがあれば、そうした欠点も補えると思うが、誰でもイージーに走れなければe-BIKEの意義は半減だろう。

ダウンヒルでも、重い車体に対してタイヤが細く、サスペンションのストロークも短いので薄氷を踏むようにスリリングだった。ドライブトレインはパワフルで申し分ないが、車体側のパフォーマンスが不足しているのである。

これは私の個人的な印象だけではなく、私よりもはるかに高いライディングスキルをもつ知人もおおむね同じ認識を示していた。もっと太いタイヤとフルサスなら完璧なのに、と。

これが人力で走るMTBならば、太いタイヤやストローク量の大きいサスペンションを採用することが必ずしも正義とは言えない。急斜面での走破性が向上する反面、平地では走行抵抗が増えて脚力を浪費するからだ。MTBのカテゴリーが走るシチュエーションによって細かく分類されているのはそのためだ。

だが、e-BIKEならば、そうした相反する条件をモーターアシストによって同時に成立することができる。じゃあなぜ最初からそうしないかと言えばやはり「価格」の問題があるからだ。

このパナソニックのフルサスMTBが市販されたとしたら、車両価格は恐らく50万円を超えるだろう。現状、この金額を自転車に投じられるのはそれこそ「コア」な自転車好きだけである。


以前にも書いた通り、e-BIKEは新しい可能性を感じる魅力的な乗り物だが、「ラクに走れるスポーツサイクル」というだけではターゲットである日本の一般的な消費者を納得させることは難しいだろう。明確な答えは私にも分からないが、ひとつ「旅」というのがキーワードになるような気がしている。モーターサイクルの世界では「ツーリング」を楽しむために重くて高価な二輪車を購入している人が大勢いるのだから。

(文・写真/佐藤旅宇)


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