新型SR400に試乗。本当のところどうなのか?

 昨年の11月、ヤマハ発動機は1978年の登場以来、ロングセラーを続けているSR400の新型を発売した。先代は「二輪車 平成28年排出ガス規制」に適合できなかったため生産を終了したが、基本構造を大きく変えることなく規制対応モデルとして復活した。


ちなみに二輪車平成28年排出ガス規制とは、従来の平成24年排出ガス規制から一酸化炭素(CO)や窒素酸化物(NOx)の規制値がおよそ半減となり、新たに排出ガス関連部品の故障を運転者に知らせる「車載式故障診断装置(OBDシステム)」の装着義務化や、燃料タンク等から排出される燃料蒸発ガスの規制値も定められた非常に厳しいものだ。燃料蒸発ガスというのは気化したガソリンのことである。排気ガスだけではなく、駐車時や給油時に燃料タンクや燃料ホースなどから僅かずつ外気へと放出される燃料蒸発ガスも規制されることになったのだ。


 SR400は基本設計が40年も前であることに加え、パワーユニットには一般的な水冷エンジンではなく空冷式の単気筒エンジンを搭載する。現代の排出ガス規制をクリアするのはかなりの苦労が伴ったことだろう。排気ガスをクリーンなものにするには燃焼温度の安定化が肝となるため、SRのような排気量の大きい空冷単気筒エンジンは不利である。 SRがそれでも空冷エンジンに固執したのは、現代において「変わらないこと」がSRのアイデンティティであり、セールスポイントだからである。


排出ガス規制への適合は社会的にはもちろん意義のあることだが、消費者にとって直接的なメリットはない。規制適合後のモデルはパワーダウンや価格が上がるというのが常なので、身も蓋もないことを言えば、むしろデメリットである。並のバイクであれば、排出ガス規制が適用されるタイミングに併せてフルモデルチェンジを敢行し、新開発のメカや流行のスタイリングを取り入れて規制適合によるネガを補うこともできるのだが、70年代から変わらぬことを価値として認められているSR400ではそれが許されない。いまだにキックスターターを採用している理由もそれだ。

かくして新型SRは価格が従来モデルの55万800円から2万1600円アップの57万2400円に。最高出力も19Kw(26ps)/6500rpmから18Kw(24PS)/6500rpmとわずかにダウンした。また燃料蒸発ガスの外気への放出を低減するためのキャニスター(燃料蒸発ガス排出抑止装置)もエンジン左前部分に装着された。エンジンの造形美もSRの魅力であることを考えると、やむを得ないとは言え少々残念な変更ではある。 一方で、従来モデルの劣化版にはしないという開発者の意地も感じられる。

まずエンジン。 最高出力は低下したものの、最大トルクは従来モデルと同じ2.9kgf・ⅿという値を維持。それどころか発生回転数が従来モデルの5500rpmから3000rpmへと大幅に引き下げられている。これは実質的なトルクアップと言ってもいい。 走ってみてもその差ははっきりと分かる。低回転域でのアクセルレスポンスが向上し、2500rpm~3500rpmでは、いかにもビッグシングルらしい地面を蹴飛ばすような加速感と鼓動感が堪能できる。400㏄という排気量は大型バイクが主流の現在ではむしろ小さい部類になってしまったが、軽い車体と増大した低速トルクによって、ハーレーのように早めにギアを上げてゆったりと「流す」走りがさらに容易で気持ち良くなった。 


もともとSRは、オフロードモデルXT500のエンジンを流用した軽量スリムなロードスポーツバイクだったが、いまこのバイクに絶対的なパフォーマンスを求める人はほとんどいない。その立ち位置は明確に「レトロ」へ移り変わっている。新型SR400のエンジン特性は現代のライダーがSRに求めるニーズを正確に把握したうえでのファインチューンだと思った。ただ、このエンジンは低速トルクだけではなく、意外にもきっちり6000rpmまで回してのスポーティな走りにも対応できる。この二面性も従来のSRと変わらない。 


やや気になったのが、先代モデルに比べてエンジンの始動性がわずかに低下したように感じたことだ。先代はピストンが圧縮上死点にさえあれば、キックをゆっくり踏み下ろしてもあっさり始動したのだが、新型は力を入れて勢いよく踏み込まないと始動しなかった。規制に対応するため燃料のセッティングを変更したことによる弊害だと思うが、少し慣れが必要だ。


塗装やメッキなど、各部の仕上げは息を呑むほど美しく、凛とした緊張感が張り詰めている。クロームメッキされたマフラーは新設計されており、なんと外観はそのままにエグゾーストノート、つまり「音」だけを徹底的につくり込んだという。歴代SRの排気音を聞き比べ、もっともSRらしいと感じたキャブレター仕様の音色を楽器メーカーでもあるヤマハ伝統の音響解析技術によって再現したというからすごい。走れば先代モデルとの違いはすぐに分かる。共振によるビビリ音がさらに抑え込まれ、中低速域の「ストトト」という単気筒らしいサウンドの一音一音がよりクリアに聞こえるようになった。


ガラスレンズのヘッドライトやメッキフェンダー、クリア仕上げのクランクケースカバーなど、いまでは珍しくなったクラフトマンシップ溢れるディテールを引き継いだ点も素晴らしい。メーターやヘッドライトケース、タンクなど、ライディング中に目に入る部分の質感が高く、このクラスのオートバイの中では抜群の所有感がある。

新型SR400の乗り味は独特である。構成要素はクラシックバイクそのものであるにも関わらず、各部が現代の技術でアップデートされているからだ。だから乗った印象はリアルな旧車とはかなり異なる。 エンジンが古めかしい振動を発しても、共振して不快なビビリ音をあげるパーツはない。ハンドリングにもクセはなく、挙動に一貫性があって誰でも乗りやすい。クラッチも軽く、ブレーキだって不満なく効く。近年流行になっているバイクと言えばネオクラシックだけれど、こいつは「クラシックネオ」なのだ。排気量やパフォーマンスでは価値を測ることのできないクラスレスなオートバイとして、いまなお貴重な存在だ。


(文・写真/佐藤旅宇)


 (スペック) 

サイズ:全長2085mm×全幅750mm×全高1100mm

シート高:790mm

タイヤサイズ:前90/100-18、後110/90-18

燃料タンク容量:12リットル

車両重量:175kg

エンジン:399cc空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ

最高出力:18Kw(24PS)/6500rpm

最大トルク:28Nm(2.9kgf・m)/3000rpm

価格(税込み):57万2400円 


ヤマハ発動機

https://www.yamaha-motor.co.jp/


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