BMWといえば古くから四輪も二輪も手掛けるメーカーとして知られるが、双方のイメージは微妙に異なる。どちらも高級車には違いないが、スポーティな高級サルーンを得意とする四輪部門に対し、二輪はオンロード、オフロードを問わず走ることができるヘビーデューティな大排気量マルチパーパスモデルを主軸としている。 BMWの「GSシリーズ」といえば、いまや各社からラインナップされている「ビッグアドベンチャー」というカテゴリーのパイオニアであり、随一のステイタスを誇るモーターサイクルとして君臨している。
4月10日~11日、BMW モトラッドジャパンはそのGSシリーズの魅力をアピールするため「GS PRESS TOURING」と題したメディア関係者を対象にしたツーリングイベントを開催した。 通常『GoGo-GaGa』のような個人運営の弱小サイトがメーカー主催のこうした催しに招かれることはないが、なぜか今回はお呼びいただいたのでノコノコと参加してきた。モーターサイクルファン以外の読者にも分かりやすいようGSシリーズの変遷を振り帰りつつ、レポートをお届けしよう。
いまや二輪の世界では唯一無二のブランドとして認知されている「GS」のルーツを辿ると1980年に発売された「R80G/S」というモデルに行き着く。これは800㏄の水平対向二気筒エンジンを搭載するオンオフ両用のマルチパーパスモデルだった。当時、このような大排気量エンジンを搭載するオフロードマシンは異質な存在だったが、BMWのモーターサイクルは70年代後半に始まったパリダカール・ラリーなどのオフロードレースに積極的に参戦し、優勝を含む輝かしい実績によってその高性能が知られるようになる。BMWが戦前から採用し続けている水平対向二気筒エンジン、いわゆるボクサーツインは低重心かつ堅牢、メンテナンス性も優れたものだったが、それは砂漠を疾走する過酷なラリーの舞台でも大きな優位をもたらしたのである。
1980年登場のR80 G/S 車名のG/Sとはゲレンデ(山道)シュトラッセ(舗装路)の略であり、オンオフを問わずに走れることを意味していた。
こちらは「R nineT Urban G/S」見ての通りR80 G/Sをオマージュしたスタイリングを採用するモデル。実際に走ってみるとベースマシンであるR nineT基本的にはロードスポーツ車だが、こういう「遊び」ができるのもGSが絶対的なブランドとして認知されているからに他ならない。
90年代に入ると、GSは「テレレバー」および「パラレバー」といった独自のサスペンション機構を採用し、高速道路からワインディング、オフロードまで、あらゆるステージでハイレベルなパフォーマンスを発揮するプレミアムな万能マシンへと進化する。クルマで例えるならクロカン四駆からSUV、ランドローバーからレンジローバーへの変遷だ。GSのこうした特性は優れたロングツーリングマシンとしても支持を集め、世界中に熱烈なファンを生むことになった。
そして現在、GSは310㏄から1250㏄までフルラインナップを揃えるシリーズへと発展している。
このツーリングイベントのために用意された車両は可変バルブ機構を採用のボクサーエンジンを搭載したR1250GSをはじめ、水冷の並列二気筒エンジンを搭載するF750GSやF850GS、単気筒エンジンを搭載するG310GSなど全9車種。こららを代わる代わる試乗しながら伊豆の老舗旅館「今井浜温泉 今井荘」を目指した。
初日は雨で真冬並みの気温というコンディション。どうにもアガらない気分で850GSで走り出したらその乗りやすさと快適さに驚いた。まさにBMWお得意の電子制御のたまものである。シーンに応じてエンジンの出力特性を制御し、トラクションコントロールやABS、さらには減衰力を可変させる電子制御式サスペンションも搭載され、雨にも関わらず直進中も旋回中も常に見えない力で地面に押さえつけられているような絶大な安心感。84年式 BMW R80という大中古車の乗っている私からすれば、不自然にさえ感じる。最近のオートバイ、いや最近のジーエスはとんでもないことになっているといきなり実感させられた。
のちにGSシリーズの旗艦モデルであるR1250GSに乗ってさらに驚愕。ななな、何じゃこの乗りやすさは!? とても256 ㎏もあるとは思えない軽快なフットワークと扱いやすく、速いエンジン。そして高速道路での快適性や安定性はF850GSさらに一枚上手ときている。もちろんこちらも電子制御式サスペンションをはじめとする最新鋭のハイテク装備を満載しており、高速道路でのクルージングは鏡の上でも走ってるみたいだ。まるでゲームの画面内でオートバイを走らせているようなフラットライド感である。帰路ではロングライド嫌いの私が、西伊豆スカイラインから東京駅近くのBMWモトラッド本社までの約170㎞を一瞬の休憩もなく、眠気知らずで走りきった。高速クルージング性能もここまで極めると、一種の官能でありエンタメなのだと思った。
BMWがつくるモーターサイクルは、スタイリングこそ少々派手になったものの、相変わらず音や鼓動、加速といった分かりやすいファクターで官能性を演出することがない。機能を突き詰めた先に官能性が生じるとでも信じているかのようだ。
GSシリーズの末弟にあたる「G310GS」。兄貴分のようなハイテク装備はないため、ちょい乗りで唸るようなことはなかったが、単気筒エンジンを一般的な前方排気から後方排気とすることで搭載位置を下げて低重心を実現。パッケージングによってアドバンテージを得たGSの血をしっかり受けついでいる。
個人的にベストバランスだったマシンがこちらの「F750 GS」。オフロードでの走破性を重視したF850GSに比べると車体がひと回りコンパクトで取り回しやすい。あと、これは他のモデルにもいえることだが、BMWのグリップヒーターは強力に暖かくて感心した。
それにしてもBMWモトラッドジャパンの太っ腹である。こうしたイベントだって多額の予算を投じて行われるプロモーション活動の一環なのだから、影響力のある大手媒体を招待した方が効果的に決まっている。二輪専門ですらない、いちライターに過ぎない私に、いまもっとも進んだテクノロジーを備えたモーターサイクルで走る機会を与えてくれたことに感謝したい。
(文/佐藤旅宇、写真/BMWモトラッドジャパン)
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