大人が「ミニ四駆」に魅了される理由

いま、30~40代のホビーとして「ミニ四駆」が人気だという。毎年開催される公式大会「ミニ四駆 ジャパンカップ」は全国14会場/17大会という大規模でありながらどこも大盛況。とくに人気の高い東京大会などではコンスタントに2000人以上の参加者を集めている。イベントを主催するタミヤの担当者のお話では、会場キャパシティの関係でこれ以上参加者を増やすことはできないということだった。そうしたシーンの盛り上がりを受けて新製品が続々と登場している。もともとは子ども(小学生)向けとして誕生したはずのミニ四駆がなぜ大人たちの趣味として定着するに至ったのか? その理由を元ミニ四駆少年で、数年前に復帰した私の考えをもとに解説したい。

これまでに1億8000万個以上を販売するクルマホビーの怪物

ミニ四駆というのは田宮模型(現・タミヤ)が80年代前半から販売しているモーター駆動の玩具だ。子ども向けに接着剤不要で簡単に組み立てられるのが特徴だ。1980年代末と1990年代半ばに社会現象ともいうべき大ブームを巻き起こしており、累計販売台数は何と1億8000万個以上にものぼる。

モーターで動く模型自体は珍しいものではなかったが、86年に「レーサーミニ四駆シリーズ」が加わったことで画期的なホビーへと発展を遂げた。車体を規格化して別売りの専用グレードアップパーツを組み込むことで、自在にチューナップできるようになったのだ。そうやって仕上げたマシンを専用サーキットで走らせて速さを競うという、いわばプラモデルに“ソフト”の概念をプラスしたことで他の模型にはない無限の奥深さを手に入れたのだ。


ミニ四駆レースは「知性」を競う

ステアリング機構を持たないミニ四駆は各レーンが壁で仕切られた専用コースで速さを競う。壁に添うようにしてコーナリングするため、マシンのサイドには壁との接触抵抗を減らすためにローラーが取り付けられている。マシンの全長や幅、車高、モーターや乾電池、ローラーの数などはレギュレーションによって厳格に規定されている。

ミニ四駆のレースは基本的にマシンの仕上がりがすべて。一度マシンをコースに放ったらドライバー(?)は基本的に見ているだけだ。コースアウトは一発失格なので、車体を安定させたままいかに高速で走らせられるか勝敗を分けるカギとなる。ミニ四駆が大人を魅了するのはまさにここが理由である。マシンをより速く走らせるには物理法則や運動力学に則り、バランスの取れたセッティングを行える「知性」が求められるからだ。速いマシン造りに欠かせない車体の低重心化や高剛性化、慣性モーメントの低減、振動の減衰、フリクションロスの減少といった要件はほとんど実車(スポーツカー)と変わらない。実車で得た経験や知識をこの全長わずか165mmのマシンに反映させることだって可能だ。もちろんセッティング作業は豊富に用意されたグレードアップパーツを組み込むだけでできるので多少の応用力があれば特殊な工作技術は不要である。

レーシングカーエンジニアを仮想体験する

レースで勝つためにはコースに合ったマシンを作ることが何より肝要だが、タミヤが開催する公式大会のコースは毎年変更される。いくらその年に優勝したマシンでも、そのままでは翌年のレースで勝つとは限らない。 上位に絡むには的確なチューンナップ、セッティングの構築はもちろん、情報収集力や想像力、大会までにマシンを仕上げるスピードが求められる。毎年大胆に変更されるレギュレーションに翻弄されつつ、テストを重ねてマシンを仕上げていくF1チームと、まったく同じ構図だ。

ミニ四駆はディープなクルマ好き、モータースポーツ好きに一種のシュミレーターとしての楽しみを提供してくれる。

ミニ四駆はこれまで2度、爆発的なブームを起こした。筆者が経験したのは80年代後半のいわゆる「第一次ブーム」だが、その10年後、90年代後半にはほとんど社会現象ともいえる巨大なブームを巻き起こす。96年に行われた公式大会「スーパージャパンカップ’96」では全国14会場を合わせた動員総数が30万人以上というとてつもない数字を記録した。世代がすっかり入れ替わっているにもかからわず何度もブレイクするというのは、ミニ四駆という玩具が時代や世代を問わず普遍的な面白さを備えているその何よりの証である。


(文・写真/佐藤旅宇)


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